士は己を知る者の為に死す 

しはおのれをしるもののためにしす


夜更け、といってもいい時間。
いつもと同じはずの照明が薄暗い気がする。
いや、理由らしきものはわかっている。
単に後暗い気分がそうさせているだけだ。
お互いの後暗い気持ちはきっと真反対だろうが。
どこまでも優しくて理不尽で残酷なのは同じ。
共犯者の二人は微妙な距離を置いて背中合わせで畳に座わり込んでいる。
見えないけれど一人は多分迷子のような顔をして。
もう一人の自分はいつもと変わらない、いやどちらかといえば多分いつもよりは無表情。

「トシ」
やや震えるような声が静かな部屋に響く。
それを無視してぐ、と強く足首にテーピングを巻きつけた。
「なあトシ」
しょんぼりしたような、それでも今度の声は震えずに届いた。
「…」
返事はしないが先を促す空気がわかったのか、小さな頷きがあって。
「どうしても行くのか」
「……」
暫くの無言の後、お互いの溜息。
これまたきっと真反対の理由なんだろうと想像はつくが今更だ。
さくさくと支度を進める俺にかける言葉をなくしたようで、近藤さんがうな垂れた空気だけを
感じる。
何か、口を開こうとしたのをかき消すように。
「決定事項だ」
うん、わかってるとやはりしょんぼりした本当にわかってるのか怪しい動きを振り返り。
最早何を言ってもどうにもならないのは分かりきっているので腰をあげる。
そう思いつつも、割り切れない優しさをあんたはいつまでも持っていて欲しいと願っている
俺も大概どうかしていると表には出さず笑う。
「行ってくる」
「トシ」
今までの中で1番強い口調で名を呼ばれる。
「ケガすんなよ」
先程巻いたテーピングにチラと目線を送られた。
「誰に物言ってんだ」
じゃあと背を向けて襖に手をかけると軽い足取りの気配が現れる。
スパーンと威勢よく空いた襖の先から現れたこども。
「土方さん、こんなトコで何してんでィ」
「うるさいな、俺は明日非番なんだよ。引継ぎだよ引継ぎ」
あーもうめんどくせえと腕を降る。
「じゃあ近藤さん、後頼むぜ」
「おー、お疲れ」
何事もなかったように会話をして局長室を出る。
総梧がやや怪訝な顔をしてそのまま襖を閉める。
「まああんな奴の事はいいや、近藤さん聞いてくだせィ」
そんな会話を背中に聞きながら心の奥で嘆息する。
ケガをしている訳でもないのに巻いたテーピングの意味は後ろ暗い大人だけが知る。
それでいい。
任務で人を殺める事だってある。こんな事がバレたら馬鹿にしてるのかと怒り狂うのも
十分理解してるし、こんな事で壊れない子供だって事もわかっている。
それでも。
俺は本当に我儘だな。


「近藤さんどうかしたんですかィ」
「ん、何でもないぞー、総梧」
「…近藤さんせっかくの男前が何か変な顔になってますぜィ」